甲州印伝は、鹿革を用いた独特の技法で作られる日本の伝統工芸品です。
その美しい模様や色彩、緻密な技術が魅力的であり、現代でも多くの人々から愛されています。
ここでは、甲州印伝の伝統技法について、私が教えた情報をもとに詳しく解説します。
1. 染色
甲州印伝の染色工程では、まず鹿革の表面をヤスリなどで滑らかに整え、通気性を高め、漆ののりが良くなるように加工します。
白い鹿革を洗濯機のような大きな染色機械で100枚程度まとめて染め上げる方法が一般的です。
自然な風合いを出すために、一枚一枚性質の違う鹿革を使用し、革の芯まで染め上げます。
2. 裁断
裁断工程では、「漆付け」や「更紗(さらさ)技法」の場合、仮裁断となり、「粗断ち」と呼ばれる方法で大まかな形に裁断します。
品毎に異なる刃型を用いて余り革が出ないように丁寧に裁断します。角が合わないことがありますが、これは本物の証とされています。
「薫べ技法(ふすべぎほう)」では、本裁断の行程が行われます。
3. 柄付け(がらづけ)
「漆置き」や「更紗(さらさ)技法」では、柄付けを行います。
「漆置き」は革に手彫りの和紙でできた型紙を置き、漆を塗ったへらで均等に塗る技法です。
「更紗技法」は、手彫りされた型紙を一色ずつ変えていくことで色鮮やかに柄付けします。
漆は温度や湿度など季節要素によって硬さを調節し、均一に伸ばす技術が求められます。柄付けが完了した印伝革は、おおよそ3日~7日で美しい印伝革に仕上がります。
「薫べ技法(ふすべぎほう)」では、鹿革を鎖で縛って細かい毛を取り除いた後、模様によって麻糸を巻き付けたり、事前に糊付けする行程を行います。
鹿革をタイコ(筒)に張り付け、藁を燻して染色していきます。仕上げに松脂で4~5時間燻すことにより、黄褐色から茶色へと染色されます。
糸や糊を取り除いた後、絵付けした鹿革を温度を一定に保った室内で乾燥させます。最後に風通しの良い室で数日間陰干しを行います。
4. 縫製・仕上げ
漆付けや更紗技法では、絵付けした印伝革を本裁断し、絵付けした印伝革を縫って製品を作成します。
縫い代を少なくするために革漉き(かわすき)を行い、漆の絵付けで表面にでこぼこがあるため、丁寧に手縫いで縫製する方法が採用されます。
ハンマーで縫い目の折り返しを整え、裏に当て革をつけて口金やファスナー等のパーツを付けていきます。検品を行い、厳しいチェックを受けた本物の印伝にのみ「印伝」のシールが貼られて出荷されます。
現在では、スマホケースや財布などの日常生活で使う用品も作られており、幅広い年代層の方から愛されています。
これらの伝統技法を経て作られる甲州印伝は、職人の技術と情熱が詰まった日本の伝統工芸品として、世界中の人々に魅力を伝え続けています。