古くより温泉街として知られ、現代においてもその認識は変わらないどころか、コロナ禍が緩和されて以降、益々人気の高い観光地として知られる箱根。年始の風物詩のひとつ、箱根駅伝の舞台としても知られていますね。
今回はそんな箱根町の伝統的工芸品「箱根寄木細工」に関する歴史や特徴など、詳しく解説していこうと思います。
箱根駅伝のトロフィーには箱根寄木細工の技術が使われています。気になる方は調べてみてください。思わず「はぁ〜」と唸ってしまいますよ。
箱根寄木細工とは
箱根寄木細工は、神奈川県小田原市および箱根町で製作される伝統的な木工芸品です。1984年に国の伝統的工芸品に指定されました。
箱根山周辺の豊かな樹種を活かし、様々な色や木目を持つ木材を巧みに組み合わせることで作られた、独特な美しさを放つ精緻な幾何学模様は箱根寄木細工の最大の特徴といえるでしょう。これらの寄木模様には「麻の葉」、「市松」、「からみ桝」、「青海波」、「矢羽根」など約60種類に及び、配色や木材の変更により更に多様なデザインが生み出されます。
見た目の美しさだけに留まらず、秘密箱、引き出し、お盆、小物入れ、コースターなど、生活に寄り添った実用的な品々が豊富に製作されていることも、箱根寄木細工が高い人気を誇る理由のひとつです。
このように様式美と実用美、その両方を兼ね備えた箱根寄木細工は国内外から高い評価を受けている伝統工芸品のひとつです。
箱根寄木細工の歴史年表
弘治2年(1556年):箱根の畑宿で挽物細工(ひきものざいく)の生産が始まる。
弘化年間(1845〜1848年):畑宿の石川仁兵衛(いしかわにへえ)が寄木細工の技法を考案。
元々挽物細工の生産が豊富であった箱根や小田原の地方で箱根寄木細工は生まれました。
この頃作られた寄木細工は今ほど複雑なものではなく、「乱寄木」や「単位文様(単位模様)」と呼ばれる簡単な模様の寄木細工が主流でした。
明治27年(1894年):大川隆次朗(おおかわりゅうじろう)が秘密箱を考案。
箱根寄木細工の代表的な品ともいえるであろう秘密箱。当時は「智恵箱」と呼ばれていたそうです。
明治42年(1909年):箱根物産同業組合が組織される。
大正12年(1923年):関東大震災で数多くの工場が被災。
昭和18年(1943年):箱根物産木工製品同業組合(旧箱根物産同業組合)が解散。戦時中、工場が軍需品生産に従事。
昭和25年(1950年):神奈川県工芸展覧会で入賞。
昭和26年(1951年):箱根物産共同組合連合会(現箱根物産連合会)が組織される。
昭和59年(1984年):「箱根寄木細工」が伝統工芸品に指定される。
関東大震災、二度の大戦と、箱根寄木細工に限らず、数多くの伝統品が衰退・消失の危機にありました。
そんな危機も乗り越えた1984年、箱根寄木細工は通商産業省(現経済産業省)によって伝統的工芸品に指定されました。
箱根寄木細工の詳しい歴史をまとめた記事➡『箱根寄木細工の歴史~自然の木目を生かした幾何学模様~』
箱根寄せ木細工の製作工程
乾燥
使用する木材を日陰で適切に乾燥させます。
選材
製作する紋様に従って、色や木目の異なる材料を選びます。これには青海波、奴、市松、矢羽根、麻の葉、三桝、紗綾形、二崩しなどの伝統的なパターンが含まれます。
部材木取り
選んだ材料を適切な厚さに手鉋で削り、紋様の配色順に膠を塗り、圧着して基礎材を作ります。
かんなかけ
基礎材から部材を作成するために、手のこで切断し、手鉋で仕上げます。
寄木(よせき)
切断した部材を同じ形のものごとにまとめて膠で結合し、木綿紐で縛って単位紋様材を作成します。
厚さを揃える
単位紋様材を膠で接着し、手のこで決まった厚さに切り取り、ブロックを作成して、組織紋様として寄木種板を完成させます。
経木削り加工(きょうぎけずりかこう)
寄木種板を一つずつ削り、大鉋で削り取ったものを「ヅク」と呼びます。
経木加工(きょうぎかこう)
アイロンで平たく広げたり、和紙で裏打ちしたりして、ヅクを美しく伸ばします。
経木貼付加工(きょうぎてんぷかこう)
最終工程として、ヅクを小箱などの製品に接着して完成させます。場合によっては、寄木種板を直接利用することもあります。
購入/見物/体験のすすめ
本間寄木美術館/本間木工所
こちらの美術館では、江戸時代からの歴史ある貴重な寄木細工の技術を継承するため、江戸時代〜昭和初期に製作された寄木作品が500点以上所蔵されています。常時200点以上の作品が展示され、年3〜4回程の展示替えを行っているそうです。
また、箱根寄木細工の伝統とその技術を継承し、多くの方々へ伝えるため、工房を公開しています。実際に訪問し、窓越しにその制作過程を見学することが出来るようです。
箱根寄木細工において、伝統工芸士*の称号を持つ方は6名しか存在しません(2024/01/25時点)。そのうち2名(本間昇氏・本間博丈氏)が本工房に在籍しています。
*伝統的工芸品の製造に従事されている技術者の中で、伝統を保持するのに必要な知識・経験・技術を特に有すると認められた方へ送られる称号のことです。
(一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会による認定)
作品の展示、工房の見学のほかに、工房にて製作された作品の購入、寄木細工の製作体験(※要予約)もできるようです。
興味のある方はぜひオフィシャルサイトにアクセスしてみてください。
本間木工所/寄木美術館オフィシャルサイトはこちら
おわりに
いかがだったでしょうか?今回は箱根寄木細工の魅力や特徴、歴史についてお伝えしてきました。
魅力あふれる箱根。観光やお食事、温泉だけでなく、訪れる際はぜひ箱根寄木細工にも注目してみてください。